STUDENT INTERVIEW

【絵本と表現コース】緒方希さんインタビュー

先日このHPで、絵本展「ものがたり展」の開催をご紹介した【絵本と表現コース】の緒方希さん。
ご自身が運営する「こどもアート教室・コロコロキッズアートクラブ」が10周年を迎えたそうです。絵本展のレポートとともに多彩な活動内容について、今とこれからの考えをお伺いしました。

◆「ものがたり展」を開催して◆

__まずは「ものがたり展」の開催お疲れ様でした。紹介サイトも興味深く拝見させていただき、実際に展示会場にお伺いして、こども等の絵本を読んでいると、あっという間に時間が過ぎました。本当にこども達のつくる絵本はとても楽しいですね。
ひとつ、今も覚えている作品に「ぼくハンバーグ、おにごっこしよ!」という言葉と画面いっぱい顔のあるハンバーグの見開きページがありました。おもしろくて頭がクラクラしました。そんな今回の絵本の制作の指導から、展示まで特に印象に残ったことはありましたか?

緒方さん
教室に通うこども達がラフから絵、ストーリー、製本まで手掛けた絵本展示「ものがたり展」は5年に一度開催しています。
教室では4歳~12歳のこども達が在籍しており、今回は卒業生の中学生~高校生まで希望者を募り6名も参加していただきました。 計40名の中には2回目の絵本製作になる子達もいて、不安と期待感をあわせもち、みんなそれぞれ自分の力を発揮してくれていました。

絵本作りが初めての子は「みんなに読まれるのは恥ずかしい」「プレッシャーだ」といいながらも、色鉛筆を握る指にマメを作るまで頑張った子、ラフ案を何度も納得するまで書き直した子、それぞれのストーリーに自分の思いをこめて表現できたと思います。


__40名参加とは凄いですね。5年前も開催されていたとのことですが、前回とは何が変わりましたか?

緒方さん
1回目よりは、私もアートスクールで基礎を学んでいますので、画材のバリエーションを増やしたり、ストーリー構成や構図の重要性を意識するようになりました。特に中高生の原画から製本までは、かなり完成度の高い絵本になったと思っております。
数年前経験したことからヒントを得て細かく描写した作品や、辛い経験を絵本という形に昇華した作品もありました。ご覧になった方々から「ぜひ出版してほしい、買いたいです」と、嬉しい感想も頂きました。


__なるほど、繰り返すことは重要ですね。こどもアート教室の展示会ということですが、なぜ一枚絵ではなく絵本なのでしょうか?

緒方さん
当教室は月1回のレッスンですので、なかなか持続して作品作りに取り組むという活動ができません。
通常は1回のレッスンで作品が完成するスタイルです。作品展をするなら、時間をかけて(持続性のある)作品作りに取り組めるものということをまず考えました。

絵画や粘土、工作などで空間を演出するという方法も考えたのですが、「絵本」という形なら、自分の思いやアイデア、ストーリー(文章)、描写・着彩(表現)、製本(工作)ができ、そして忍耐が必要。 時間をかけて作り上げる経験ができます。出来上がるまでに「アート」に大切なすべての要素が凝縮されていると考え、絵本作りに取り組むことにしました。私自身が幼い頃から「絵本」が大好きというのもありました。


__総合芸術としての絵本ですね。舞台と同じように広く場の力ということを考えると、展示会場として「カフェやまちライブラリー」という場所で展示する意図や、意味もありそうですね。

緒方さん
親戚の方々に読んでもらうだけじゃなく、「カフェやまちライブラリー」などで、たまたま来店したお客様に自分たちの作品を読んでいただくということを目的にしていました。
見ず知らずの人たちが自分の作品を読んで、感動した、楽しかった、何かしら心を動かされたという現実を体感することによって、表現する喜びを味わってもらいたい、そして自信や自己肯定につながると考えていたからです。

会場にはアンケート用紙を設置していましたので、終了後にはこども達に読んでもらい、たくさんのお褒めの言葉にみんなとても喜んでいました。きっと自信に繋がったと思います。

[感想例]
「自分の経験や気持ちを表現できることは尊いと思いました、とても感動しました。」
「みんなとってもおもしろい!みんなの言葉の力に感動!おばちゃんも頑張ろうと思いました。」
「色使いやタッチなど大人には出せない独創性があり面白かったです。」
「こども絵本作家の想像力はすごいですね。ストーリーもちゃんと考えられていてすばらしかったです。」
「どの絵本もビックリするくらい素晴らしく、パワーをもらえました。心が少しきれいになった気がします。」

__たくさんの感想がうれしいですね。絵本の展示だけではなく、読者が参加することで成り立つイベントとしても、ゆったりとした会場が機能していましたね。では、緒方さんが考える絵本そのもののイメージや定義はいかがでしょうか?

緒方さん
私の幼い頃からの「絵本」のイメージは、想像をふくらませて夢をみられるもの。 勇気をもらえるもの。ワクワクドキドキ感を味わえるもの。
「いつかはきっと・・・」作:シャーロット・ゾロトフ 絵:アーノルド・ローベル(ほるぷ出版)など幼い時に読みながら、キラキラと夢みるように自分の将来の姿を重ねていました。

大人になって手にする絵本では「空の飛びかた」作:ゼバスティアン メッシェンモーザー(光村教育図書)にひっくり返りそうになったり、子育てに悩んでいる時に「カッパもやっぱりキュウリでしょ?」作:シゲタサヤカ(講談社)に大笑いして救われたり、素晴らしい絵本の数々に心動かされている毎日です。
そう思うと、私にとって絵本は「その時々の人生に寄り添い、毎日を豊かにするもの」なのかもしれません。


__「豊か」というキーワードは、常識や大人の事情にとらわれない、こども達の作品に通じますね。こども達の作品に接することで、絵本制作に対する気づきや変化はありましたか?

緒方さん
こども達はラフから自分の思いを入れ込み、アイデアを出していますので、おのずと身近な話題や願望などが、ストーリーに顕著に現れてきます。

まだ生まれて4年しかたっていない子は、絵本の中で2歳の子が主役で冒険したり、食べ物がかくれんぼしたり、電車や新幹線が鬼と遊んだり、身近なことから想像がふくらんでとても純粋に可愛いストーリーになっていました。
絵も心のままに描いているので、タッチが荒くても恰好良かったり、色彩豊かだったり、無駄なものがなくてシュールだったり、まさに魂そのものの『生きている絵』で、こんなステキな絵を描けて羨ましいなーって思っちゃいます。

絵本の最後には「あとがき」をつけています。
この絵本に込められた思いや、作者の気に入っているところなど、本人が書き込んでいます。 手にした方はその「あとがき」を読み、もう一度絵本を読み返して、内容をより深く理解できた、面白かった、と感想をいただきました。
自分の思いや工夫したところ、「遊び心」などを、あえて説明することで、新しい発見があり、楽しんでもらえるのは、よかったなーと思いました。


__こども達の生活の中からテーマが生まれるけれど、それぞれに違いがあることが豊かさですね。そして「あとがき」という方法は、とてもよかったですね。作品だけでは伝わりきらない部分の生の声が聞こえてきました。絵本がより面白く読めました。

◆「リサイクルアーティスト」の活動とは◆

__絵本展以外にもワークショップやイベントを通じて、いろんな方法での作品作りを行われているようですね。リサイクルアーティストの活動の目的は、そして一番に大切にされていることは何でしょうか?

緒方さん
リサイクルアーティストの理念などは、公式ホームページ(https://ogatanozomi.com)にございますので、ご一読いただけたら幸いです。

こども達とアート活動する際に大切にしていることは、
①素材を沢山ださない、あえて不自由な環境を作る

「物質的には不自由」
不自由で、自分で考え生み出すしかない環境を作ります。

「思考的には自由」
ルールはない、そこで工夫したり、想像・創造力をふくらませ活動します。

②端材を有効利用する、活動終了後もリユース、リサイクルを考える

アート活動に使う素材は企業や工場から出た端材がメインです。
玩具や遊具がなくても実は身の回りもので、自分のアイデア次第で遊べたり素敵なアート作品になったりするということを体感してもらいたいと思っています。活動後は作った作品や経験をどう生かすか、みんなで考える時間を作っています。

このような活動を通して、人や環境のことに目をむけ考えたり、身の回りの物を大切にしようとする思いが自然と生まれたらいいなと考えています。
あえて「思いやり、認め合い」「人や地球環境を大切に」なんて一言もいいません。本当に大切なことは、自分なりの答えで、自ら気づいてもらいたいからです。

◆「アートスクール」について◆

__そうですね、いくら説明を受けても理解できないことも、体験や経験による「気づき」があれば腑に落ちますよね。
では最後に、2019年に入校されましたが、きっかけや当校を選んだ理由はありましたか?
略歴によると幼稚園教諭免許・保育士資格をお持ちで、大学では造形から建築、デザイン、空間プロデュースまで多岐にわたり学び、空間演出デザインコースを卒業。それと同時にこどもアート教室を設立し、リサイクルアーティストとして活動されておられるとのことですが、そこにプラスして【絵本と表現コース】の受講する意味や感想、今後の活動の目標はありますか?

緒方さん
入校のきっかけは5年前の「ものがたり展」開催の経験により、絵本作りの楽しさに気づいてしまった、もっと正式に基礎から学んでみたいと思ったからです。
私は枚方市在住なのですが、同郷出身のミロコマチコさんもこちらのスクールに通われたと知って、最初に興味を持ちました。ミロコさんの画風も大好きなのです。

コロナや仕事の都合などで、休学しがちですが、通っているうちに、読み手側から「作り手側」の視点と、基礎的なことが学べ、知識も着実に増えていってます。基礎演習が終わり、自分の作品作りに入ったところでずっと模索中でありましたが、先生方の芸術史や絵本の情報量に驚きつつ、ピンポイントなアドバイスをいただくことにより、自分は何を生み出したいのか、徐々に見え始めています。
すでにこれまでの経験は、自分のアート活動や教室にも生かされていますし、新しい世界に一歩踏み入れている実感があります。

今後の活動の目標は、こども達のようにいきいきと「魂」で描いた絵で、自分の「絵本」を生みだすこと、この一点です。
仕事や家庭、絵本作りの両立は難しいですが、あせらず、たゆまず、亀の歩みでいきたいと思います。


__こども達の表現のように、常識や大人の事情に左右されないためにも、知識と情報は大切ですね。ではお忙しいところ、ありがとうございました。今後の益々のご活躍を期待しております。


*写真撮影場所「ものがたり展」巡回展開催
まちライブラリーとかとか
https://tokatoka.net/

「コロコロキッズアートクラブ」代表アート講師・リサイクルアーティスト
緒方希
公式HP:https://ogatanozomi.com/


インタビュアー : 絵本と表現コース講師/中田弘司

 

 

 

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