美術科金曜アトリエ通信12月号「今年もありがとうございました」
美術・絵画コース皆さまこんにちは。美術科講師の山下です。
年賀状の準備などで来年の干支が寅だと意識する時期ですね。今年の干支はというとお正月が過ぎたら気にする機会もありませんでしたが、丑年の最後に牛に関わることを描いてみます。
曾我蕭白《許由巣父図襖(部分)》
絵を描いていると動物のお世話になる場面が多々あります。紙やキャンバスにも膠を用いた処理が施されますし、筆や刷毛には用途によって様々な動物の毛が用いられます。牛の刷毛も大変優秀な使い心地です。
初夏に武蔵野美術大学美術館で「膠を旅する」という展覧会がありました。コロナ禍で公開は学内関係者に限定されてしまい、このまま会期終了かと諦めかけていた時に短期間ですが土日のみ予約制で一般公開されました。
館内は3つの充実した展覧会が相互に巡れるようになっていて、それが無料ってすごいです。お目当ての「膠を旅する」は実物資料や映像資料が豊富で長居しないではいられませんでした。昔ながらの皮革処理の方法を守ろうとすると最初に川に皮を浸けるのですが、微生物の作用にびっくり。モッモッと毛をもいでいく映像に見入ってしまいました。そもそも膠ってなんであんな形をしているのだろうという最初の疑問がありましたが、丁寧に工程が紹介されており、実物の存在感と説得力もあって理解が深まります。
食肉加工で出た皮革が職人さんの手により次々と姿形を変え、その国や地域の文化を支え、最後に膠となって絵描きの手元にも届きます。自然を相手にするのですから品質を保つ努力は並ではないですね。ささやかながら買い支えねばと思います。ふるさと納税に登場しないでしょうか。
壁に描かれた、誰が言ったか「牛は鳴き声以外捨てるところがない」という言葉に呆然。完成されたものを見るだけでは想像が及ばなかった部分を豊富な資料が補ってくれ、命をいただいて描く絵画があることを改めて学んだ一日でした。美術館と博物館の役割を併せ持つ素晴らしい展覧会でした。
2021年 内田あぐり監修 国書刊行会
↑画材屋さんを囲んだ座談会から始まる、最初から最後までずっと面白い本。
牛膠、ウサギ膠、魚の膠など、膠には日本でも海外でも他に代え難い材料としての長い歴史があります。用途によって接着力の違いなどで選択しますが、その成り立ちを知ると特性の理解が進み、より自分にあった使い方が探せるように思います。私も今まで当たり前だと思っていた膠の扱いが絶対ではないことに今回気付かされましたし、膠より利便性を高めた商品になっているものの有用性も知ったうえで、今後もお世話になっていく材料だと感じました。まだ使ったことがなかった方も、機会があれば触れたり匂いを嗅いだり使い道を考えたりしてみてください。
丑年の最後に牛にまつわるお話でした。牛さん、動物さん、すごいです。感謝いたします。
山下 智子