絵本づくりの考察 3.「シンプル」

伊丹市立美術館での『シンプルの正体』「ディック・ブルーナのデザイン展」では
ブルーナの作品をいろんな切り口で見せてくれましたが、その全てが「シンプル」でした。

 

シンプルには簡素、単純と言った意味があり、
余分な要素をそぎ落とし、引き算によって本質を明らかにする表現です。
そのためにブルーナは1枚の絵を完成させるのに100枚以上のスケッチを描き、
試行錯誤して絵本を生み出したそうです。

 

また、絵の要素には形だけではなく、それを補完するため色彩もあります。
ブルーナの絵本づくりでは、「ブルーナ・カラー」と呼ばれる
赤、青、緑、黄、グレー、茶の6色の決められた色しか使わないルールがあります。
たったそれだけの色数ですが、それぞれの色は意味を持ち、
例えば青色は青い物体の色だけではなく、悲しみ、静けさなども表します。
隣り合う色の関係性からも感情を伝えられると考えたそうです。

 

 

しかし、シンプル(simple)という言葉には
「簡単な」「地味な」「つまらない」なども意味する英単語でもあるので、
そういう絵にならないように注意が必要です。

 

絵本は、絵と文が一体になって表現されるので
それぞれの内容目的にあった描写が必要になってきます。
シンプルな絵だけでは、ドラマチックで劇的な世界観の表現は難しいようです。
漫画のような大きな表情や、激しい感情の表現には不向きです。

 

例えば、ミッフィーちゃんの顏の要素は整理され、表情をつくりやすい眉毛がありませんし、
いろんな意味を持たせる事のできる口は、鼻とセットで×(ばってん)になってしまっています。
大粒の涙を流す事があっても、泣き叫ぶような事はしません。
ただその表現の規制が、穏やかな世界観を成立させる側面でもあるのです。

 

ブルーナの絵本は、シンプルな線と整理された色数による
描き込みすぎない事で、視線は登場人物に集まりす。
そしてシンプルな言葉と出来事によって、読者のイメージは広がり、
温かなユーモアを、ゆったりと楽しめます。

 

シンプルは、単純ゆえに幼児にも理解しやすく、優しい世界の表現に適しているのです。

 

絵本コース講師 中田弘司

 

 

 

絵本づくりの考察 1.「起承転結」の記事は、コチラをクリックしてくださいね

絵本づくりの考察 2.「擬人化」の記事は、コチラをクリックしてくださいね

中田 弘司

中田 弘司
Profile
制作事務所勤務デザイナーを経て、1989年よりフリーランス。
今までに幼児向け雑誌絵本等にて100話以上のお話の挿絵制作。
絵本をはじめ、「ビッグコミックオリジナル・増刊号」(小学館)表紙イラストや、
月刊誌「大阪人」にて歳時記や町歩きの画文の連載等、壁画からキャラクターま で多様な作品を制作。
東京・大阪・神戸にて個展多数。主な絵本に「ぷぅ」( 作:舟崎克彦/ポプラ社 )がある。
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目には快感、心に喜びを、気持ちを遠くに運ぶ絵本を目指しています。
仕事での経験を生かし、読者の視点も考えながら、作品を創るアドバイスをしたいと考えています。
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