絵本づくりの考察 6.「目的」

制作に行き詰まったり、内容を決定する根拠が好き嫌い以外に欲しい場合は、絵本づくりの「目的」を改めて考えると自分だけのモノサシができ、分かりやすくなります。最終目的は、書店に並んでいる子どものための絵本という方が多いと思いますが、もちろん絵本はそれだけではありませんし、自分が本当に作りたい物が違う場合もあります。


1.読者設定を考える

読者設定を幼児だけではなく、それ以外とすると規制はなくなり表現の幅は広がります。
例えば、このブログでも紹介したタラブックスの「世界のはじまり」中央インド出身のゴンド民族に伝わる創世神話、見開きで完結する詩画集です。これはインドでシルクで刷った手製本シリアルナンバー付き、日本版も販売されている絵本です。内容は、決して子ども専用ではなく、画集やオブジェとしての物欲を満たし、メッセージもありました。

『世界のはじまり』(作・絵/バッジュ・シャーム、文/ギーター・ヴォルフ、訳/青木恵都)
◆タムラ堂/日本語版出版社◆はこちら


同様に、個人の作品として個展で展示・販売するソフトカバーのZINEという形式の小冊子絵本なら、個人でも制作は可能です。オフセット印刷は高いですが、少部数ならオンデマンド印刷という方法もありますし、アートスクールではシルクもエッチングも木版画も出来ますので、そこから手製本で仕上げる事も可能です。


2.テーマを考える

次の2冊は「わかやま絵本の会」という所が発行しています。たまたま、熊野の土産物屋と、奈良と大阪の境界の暗峠のそばの慈光寺で見つけました。
絵本自体の大きさも画風も違いましたが、よく見るとどちらもテーマは歴史や文化地方に関する民話や昔話です。それぞれのお話に縁のある場所で販売されているお土産物のような絵本です。色紙に刷った表紙はソフトカバー、本文は2色や1色刷り、パンフレットのような絵本でコストを抑えています。

この発行所は和歌山に多い民話など子どもに伝わっていないことから、勉強しよう伝えようという「目的」で、絵本という親しみやすい形で表現しようと、漫画家、デザイナー、図書館司書、主婦が集い1985に初めての絵本を発行したそうです。

右/『役行者の鬼たいじ』(文/松下千恵、絵/西原加奈子)
左/『ヤタガラスをさがせ!!』(絵/達哉ムチャチョ、解説/立花秀浩、松下千恵)


◆わかやま絵本の会◆
ただ、現在では27年間の活動後解散し、来年からは本を販売する「わかやま絵本の会文庫」スタートするようです。詳しくは「わかやま絵本の会 ブログ版」に記載されていました。

そして、どんな「目的」で制作しても、作り手の満足だけでは絵本としては成り立たず、最終的には、誰かが読んで初めて仕上がる物が絵本です。

絵本づくりの考察(各記事は、下記をクリックしてくださいね)
1.「起承転結」
2.「擬人化」
3.「シンプル」
4.「文字の表情」
5.「普遍性」

絵本コース講師/中田弘司

 

 

 

中田 弘司

中田 弘司
Profile
制作事務所勤務デザイナーを経て、1989年よりフリーランス。
今までに幼児向け雑誌絵本等にて100話以上のお話の挿絵制作。
絵本をはじめ、「ビッグコミックオリジナル・増刊号」(小学館)表紙イラストや、
月刊誌「大阪人」にて歳時記や町歩きの画文の連載等、
壁画からキャラクターまで多様な作品を制作。
東京・大阪・神戸にて個展多数。主な絵本に「ぷぅ」( 作:舟崎克彦/ポプラ社 )がある。
Message
目には快感、心が楽しみ、気持ちを遠くに運ぶ
絵本やイラストを目指しています。
仕事での経験を生かし、一緒に考えながら、アドバイスをします。
ArtWorks
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