絵本づくりの考察 13. 「チェック」

いきなりですが「オズボーンのチェックリスト」というのをご存知でしょうか?
アメリカで広告会社の代表アレックス・オズボーンという人物が、アイデアの引き出し方を体系的に研究し、アイデアに困った時に自問自答していたチェックすべきリストのことです。
このチェックリストは9つの項目から成り立っており、その内訳は以下の通りです。


実は、これが絵本づくりに役立つのです!

どんな絵本にしようかと考えるとき、作者は自分の好きな内容にすることが大事ですが、そのためにまず「アイデア」を出すことが一番の悩みではないでしょうか?

そして、そのアイデアが思いつきで終わらないためにも、アイデアを広げて検証することで作品はより良くなります。

お話を作った時、画面を構成した時、いいことを思いついた時、好きで描いた時、でも何か物足りない場合は、その時点ではまだまだアイデアの素材の状態と考えます。生み出したアイデアに変化をつけ、量を生み出すことを繰り返すことで質は上がってきます。

例えば、「桃太郎」というお話を作ったけれど、物足りない場合には次のように「チェックリスト」を使ってアイデアを広げてはどうでしょうか?


1「転用」今の用途とは別の使い道を探す、という考え方。
例えば桃太郎の場合、きび団子で商売を始めたら、お話はどう展開するだろうか?  


2「応用」既存の商品を今有る仕組みを使ったり真似をしてみたりする、という考え方。
例えば桃太郎の場合、大きくなって川で浦島太郎のようにカメを助けるとどうなるだろうか?


3「変更」既存の商品の色や形状などの見た目や様式を変化させる、という考え方。

例えば桃太郎の場合、川から流れてきたのは桃ではなく、ブドウだったらどんな子供が生まれるだろうか?


4「拡大」あらゆる方面を拡大したり大きくしたりする、という考え方。
例えば桃太郎の場合、生まれてから、どんどん大きくなって、暴れてしまうようになると村の人はどう思うだろうか?


5「縮小」既存の商品や形態を小さくしたり狭くしたり短くしたりする、という考え方。
例えば桃太郎の場合、生まれても大きくならず、小さいままだったら、鬼退治にいくだろうか?


6「代用」既存のものを「別のもの」に変えてみる、という考え方。
例えば桃太郎の場合、「さる・いぬ・きじ」が「ろば・ねこ・はと」ならば、どう戦うだろうか?


7「置換」パーツや人の配置、そのほかあらゆるものを入れ替える、という考え方。
例えば桃太郎の場合、鬼の側から見たお話を考えたら、どんな内容になるだろうか?


8「逆転」上下左右、作業の工程や役割など、さまざまなものを逆にする、という考え方。
例えば桃太郎の場合、とっても弱く、鬼につかまったらどうなるだろうか?


9「結合」「既存の2つを合わせて1つにできないか」など、2つあるものを1つにする、という考え方。
例えば桃太郎の場合、金太郎と出会い一緒に鬼退治をしたらどうなるろうか? というふうにチェックリストを利用して、普段は思いつかない展開を考えてみると、お話はどんどん広がっていきます。

妄想は妄想を生み、そのイメージの中で遊び楽しむ時間は、作者にとって至福の時間です。
お金もかからずに、どこまでも遠くに行けるのです。
まずはアイデアを広げて、使う使わない、良い悪いは後で決めます。
これは「ブレインストーミング」といわれる会議の手法でもあります。
もちろん、思いついたアイデア全てを使う必要はありませんし、詰め込みすぎると何が言いたいのか分からなくなります。

結局、最初のアイデアが一番良い場合もありますが、常に最初のアイデアがベストとはかぎりませんので、そうやってアイデアを広げる事に慣れておくと、別の時にも応用が効きます。

また、「チェック」することはストーリーだけのことではなく、絵を描く時や前回の「構図」でお伝えした事にも通じます。

画面に対して主人公を拡大や縮小したり、色味を変更したり、シーンの要素を代用したり、上下や左右を逆転し配置することで、伝えるべき内容をキープしたまま画面の見え方は変化します。
これによって、同じ要素の画面が続く場合も、ページをめくった時に変化をつけることも可能になります。

さらに、「チェックリスト」として考えるならば、この9つにこだわる必要もありません。
例えば、 「ほかの使いみち」は、あるだろうか? 「取り除く」と、どうなるだろうか? 「並べ替える」と、どうなるだろうか? というふに、自分の作品作りの癖や傾向を考え、自分に合った「チェックリスト」を考えることも、効率的に効果的に作業をする方法になります。

最後に、絵本づくりは決定することの連続です。

ほんとにその設定で良いのか?その文章で良いのか?その画面で良いのか?と、常に自問自答しながら繰り返し考え続け、ブラッシュアップをして作品作りを進めてくださいね。


絵本と表現コース講師/中田弘司


絵本づくりの考察(各記事は、下記をクリックしてくださいね)
    1. 1.「起承転結」
    2. 2.「擬人化」
    3. 3.「シンプル」
    4. 4.「文字の表情」
    5. 5.「普遍性」
    6. 6.「目的」
    7. 7.「序破急(じょ・は・きゅう)」
    8. 8.「キャラクター」
    9. 9.「オノマトペ」
    10. 10.「判型」
    11. 11.「タイトル」
    12. 12.「構図」

     

    中田 弘司

    中田 弘司
    Profile
    制作事務所勤務デザイナーを経て、1989年よりフリーランス。
    今までに幼児向け雑誌絵本等にて100話以上のお話の挿絵制作。
    絵本をはじめ、「ビッグコミックオリジナル・増刊号」(小学館)表紙イラストや、
    月刊誌「大阪人」にて歳時記や町歩きの画文の連載等、
    壁画からキャラクターまで多様な作品を制作。
    東京・大阪・神戸にて個展多数。主な絵本に「ぷぅ」( 作:舟崎克彦/ポプラ社 )がある。
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    目には快感、心が楽しみ、気持ちを遠くに運ぶ
    絵本やイラストを目指しています。
    仕事での経験を生かし、一緒に考えながら、アドバイスをします。

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