プリンターとしての展覧会

私事で申し訳ないのですが・・・。
 現在、日本からの渡航は停止されておりますが、7月末より台湾で「佐伯俊男版画展」が開催されます。「痴虫」「黒鬼灯」と題された2冊の版画集を中心に私がプリントした佐伯俊男の版画作品を展示されるそうです。

 「痴虫」は販路も何も持たない私が唯一版元として出版した版画集です。「黒鬼灯」はパリで出版された版画集です。私が出版した版画集は手作りのチープな畳紙に入っていますが、パリで出版された版画集は黒塗りの桐箱に入っています。その他50号くらいの版画が5点ほどあったはずです。

 今までに幾人かのアーティストが私のプリントで作品展を催しておられますが、私が名前を出すのはパリで催された佐伯俊男版画展以外はありませんでした。私にとって40年以上のキャリアの中で版画家としてではなく、プリンターとして表舞台に立つ展覧会は佐伯氏だけです。“職人には無名性の誇りがある”と言われますが、今回だけは寛恕下さい。何より我々の仕事に注目していただいた関係者の方々に感謝すると共に一昨年の末にご逝去された佐伯俊男氏のご冥福をお祈りいたします。

 佐伯俊男氏は70年代「平凡パンチ」や「プレイボーイ」といった雑誌、寺山修司の「天井桟敷」のポスターやジョン・レノンのレコードジャケットなどで活躍した画家ですが、突如として表舞台から姿を消してしまいました。
私には佐伯氏の知識は全くありませんでしたが、出会いはそんな隠遁生活の中でのことでした。プリンターとしての仕事は他のアーティストと何ら変わることはありません。しかし私が関わったアーティストの中には魅力的な人もたくさんいらっしゃいますが、佐伯氏の人生とピュアな御人柄は尊敬するとともに興味が尽きません。

 佐伯氏の作品は一般的にはエログロとか春画とかと呼ばれる作品が多く、毛嫌いする人もいます。海外では「エログロあるいは春画のゴッドファーザー」と呼ばれていますが、それゆえ日本での展覧会は開催し難い画家です。
作品から人柄を読み取ることは難しいかも知れませんが、世界中にはコアなファンも多い画家です。(「痴虫」という佐伯氏デザインのラベルの付いた日本酒もあり、利き酒会もあるそうです)

 皆様にご覧いただく機会はないかも知れませんが、実は地味にこんなこともしています。今度は版画家として地味に発表したいと思っています。(できれば海外、あの世かも知れませんが???)

2022年には版画の世界も大きなイベントが幾つか企画されており、若い作家や新しい表現に触れられるのではないかと期待しています。皆様も是非版画を注目してみて下さい。

谷山 文衛

谷山 文衛
Profile
‘10 佐伯俊男展に参加(DA-END/PARIS)
‘11 「日本のイメージの多様性」展(USA)
‘12 V Biennale Internazionale Mail Art2012(ITALIA)
‘13 International Mail Art Exhibition at the Akademie der Kunst.Berlin(GERMANY)
‘13 第4回 NBCシルクスクリーン国際版画ビエンナーレ展(美術家連盟画廊/東京他)
‘15 日米美術交流展(金沢湯涌創造の森/石川)
美学出版刊行『戦後関西版画史』の「関西の版画工房」を執筆
大阪芸術大学、京都造形芸術大学元非常勤講師
宝塚造形芸術大学元特別講師
刷り師として国内外有名作家の版画制作に携わる。
Message
ストレスの溜まる現代社会で、
ひとときの精神の解放を共有したいと思っています。
ArtWorks

 

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