版画コース・ブログ講評 11月分
版画コースこんにちは!
版画コース講師一同です!
今月から数ヶ月は、ちょっと今までのブログ内容と変えてみまして…!
生徒さんたちの作品講評を行います~!(^^)/
「版画コースの全講師」から講評を貰える機会が欲しい!(一人の講師から集中して教わる場合が多いのです)という意見がありましたので、ブログのネタに困っていた事もあり!ブログで実現してみました~っ!!
希望する生徒さんには、講評してほしい版画作品を送ってもらっています。3名ずつくらいで講評を載せていきますので、今月載らなかった方は少々お待ちくださいませ!
今月は以下の3名の講評です!
・宇枝ゆきこ さん
・三輪和正 さん
・batter さん
以下のマークがこの講師です。
:谷山文衞 講師。シルクスクリーンを主に指導しています。
:山内あすな 講師。銅版画を主に指導しています。
:平田彩乃 講師。木版画を主に指導しています。
版画コースの講師陣、「谷」と「山」と「平」ってなんだか面白いですよね~。
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作者名:宇枝ゆきこ
タイトル:chromosomes
制作年:2021
版種:銅版画
制作者コメント:いのちの不思議をテーマに、x染色体とy染色体の連なりを表現しています。
エッチングの線が美しい作品ですね。
宇枝さんらしい染色体(?)の周りの細胞も丁寧に描かれていて、染色体にはたと目が行くのに、周りのエッチングらしい描き込みもあるので見ていて楽しい作品です。
いのちの不思議をテーマにしているとのことですが、私には細胞や歯茎の中の乳歯に見えました。人によって、何に見えるかは違いがあると思いますが、体のどこかがモチーフなんでしょうね。
線がきれいに腐食され表現されていますが、「いのち」というテーマはきれいなことばかりではないと思います。部分的でも、全体的にでも長時間腐食をし、繊細な線との違いも見てみたかったです。
また長時間腐食すると見えなかった銅板の傷も腐食されてきますね、それをどう作品に中に取り込んでいくか、今後はハプニングも作品の糧にしていってほしいなと思います。
性の染色体(X,Y)は、はじめは全てX染色体なのに、突然変異でY染色体になり、性別が決まります。モチーフ(染色体)と技法(エッチングでの長時間腐食のハプニング/突然変異)をリンクさせて、制作すると違う表情の作品になるかなと今後の作品も期待しています。
この作品は今年の10月に展示もしましたね。一緒に観に行きましたが、額装も良い感じでした。
展示会場で、来場された方が「ペン画かと思いました」と言っていましたが、確かにこの作品はいつもの作品よりペン画っぽいかな!?
銅版画の線は慣れるまで綺麗に描けない人が多いのですが、宇枝さんは最初からとてもとても上手で、線が綺麗です。器用なので、思い通りに描けるんだと思います。
そこであえて平田先生の書いているような長時間腐蝕やシュガーチントなどの技法を取り入れてみて、「思い通りにならないような部分」を画面上に作っていくと、より「命」らしさが表現できて、銅版で制作する楽しさも出てくると思います。
ただ、色々な技法を重ねすぎると重い作品になってしまいがちで、宇枝さんの望んでいる方向性とは違って来るかもしれません。個人的には植物を描いていた頃の、勢いある描き方が好きです。
非常に良くできていると思います。真面目に作られている作品です。逆に真面目さが有機的なイメージにもかかわらず、伸びやかさに欠ける結果になっているのかも知れません。ともすればデザイン的になってしまいます。作品のサイズ感にも気を配ってみて下さい。フンデルトワッサーのようにカラフルな表現も見せて欲しいです。ドキドキ感が欲しいです。何はともあれ、確りイメージされて作られていると思います。
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作者名:三輪和正
タイトル:菫
制作年:2021年
版種:水性木版画
制作者コメント:素直でシンプルな、濁りのない作品を意識しながら制作しています。
顔も知らない遠くの他人に評価されることよりも、近くにいる大切な人に喜んでもらえることが版画を制作する最も大きな動機であり、目標です。
この作品の元になるきれいな写真をいただいたことが制作のきっかけです。
花をいとおしむ気持ち、美しいものを美しいと思う素直な気持ちが写真から伝わってきて、それを少しでも表現できればと考えました。
花びらを表現するには技術的な課題が多く、苦労はありましたが、時間をかけて向き合ったつもりです。
花弁のグラデーションから、丁寧に取り組んだことが伺える作品です。
紫色のグラデーションや、あてなしぼかしの黄色など、小さい版での細かいグラデーションは、大変だったと思いますが、色も濁らずきれいにあらわれています。葉の緑色もフラットに摺られていますね。
写真から木版画に起こしたとことですが、少し素直に起こしすぎて、花弁とバックの緑色の版が分かれてしまったという印象があります。緑と紫の合わさった色は茶色になるので、水性木版ならではの色の足し算も考慮して、今後は版構成できると良いかなと思います。濃い紫の花弁部分版と緑色の葉部分を重ねて土色も表現できますし、薄い紫の版と黄緑色の版で葉の影部分のような表現もできるのではないかなと思います。
メイン(紫色)・サブ(緑色)となる色同士を重ね合わせることで、2つのモチーフを調和させる役割も果たしてくれると思います。水性木版ならではの考え方なので、すぐには取り入れられないかもしれませんが、下絵から版ごとへ展開するときに少しずつでも取り入れられるよう制作に励んでいただければと思います!
私が撮影した菫の写真を三輪さんに資料としてお渡ししたのですが(なんだか良いように書いてくださってありがとうございます…!)、あの花々の可愛い様子が表現されています。素直で濁りがない作品を作りたいという意志通りにできていますね。「自分は何が作りたくて、どう表現して誰に届けたいか」という事を明確にできていて、その通りに制作できているところが、個人的に一番評価したい点です。制作方針と言うのでしょうか?この部分で悩んでいる方は結構多いのです。
版の分け方、重ね方、最初の頃よりも随分と上手くなりましたが、版分け等に関しては平田先生の書いているアドバイスを取り入れるともっと良くなります。熱心に取り組んでいるので、すぐに上達しますね。この調子でやっていきましょう!
優しい作品で、心穏やかになれます。技術的にはズレがあったり摺りムラがあったりしますが何の問題もありません。逆に心地よく表現されています。ただ気になるのは花の中心に放射線状に入っている部分です。先に葯と言うんですか?丸い点がありますよね。それが有るのと無いのでは絵の表情が随分違うと思うのですが…。それと画面構成です。画面上部の濃い紅の部分が横に帯状の塊に見えるのが気になります。
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作者名:batter
タイトル:chair
制作年:2021年
版種:メゾチント
制作者コメント:打ち棄てられた椅子のある風景を捉えた、自身の写真作品を下絵に制作したものです。
メゾチントという銅版の技法で制作された作品ですね。
メゾチントは、あらかじめ銅板に細かい傷を均一に入っている版を使用します。
この版を黒インクで刷ると、真っ黒に刷り上がりますので、黒い紙に白い色鉛筆で描くように削りながら、イメージをつくっていくように版を削りながら作っていきます。
黒からグレー、白の部分を描き込んでいくので、いつも描く順序とは真逆の描き込みとなり、黒から浮かび出てきたような独特な画面となる技法です。
この作品も朽ちた椅子が建物(廃墟?)の中で静かに居座っているのが、技法と合わさってよく表現されていますね。
椅子の周りの荒廃としたそれでいて静かな空間が、うまく表現できています。
そこからひっそりと椅子が浮かび上がっていて、椅子の描き込みも丁寧にされていますね。
完成度の高い作品だと思いますが、個人的な好みとして、もう少しグレーの幅があるとより良いかなと思いました。
脚部分の輪郭を表すような縦のハイライトの線や、他にも椅子を際立たせるために意図して調子を変えた部分があると思います。
私の意見として、メゾチンとで空間を描くときは光源がとても重要なポイントになると思います。
黒からグレー、白を描いていくので、どこからどのくらいの量の光が届いているのか、想像してみると、ここまで描き込みをしなくてもよい部分があるかもしれませんね。
あえて輪郭をぼんやりさせて、椅子と背景の空間が溶け込んでいるような調子としても良かったかなと思います。
メゾチントのグレーの幅を増やすには、経験が必要になってくるかと思いますので、グレートーンの実験作品、このぐらいの削り方で、何分腐食してこのグレーになる、という試みもしてみてもいいかもしれません。
グレーの幅を意識しつつ、輪郭を追いすぎないよう、次回からチャレンジしてもらえれば、より深みのある作品と期待しています。
メゾチントは光を掘り起こす表現方法です。画像ではなかなか黒の深さを感じることができませんが暗黒からハイライトまで確り表現されています。ただグラデーションが雑になりがちですので尚一層の注意をして下さい。また材質の表現が気になります。椅子の座面と背もたれの材質が同じものなのか、床の材質は何なのか。広い面のグラデーションに工夫が必要かも知れませんね。この作品の場合、描画力も特に重要です。
改善点については他の先生方が書いているので…。個人的に特筆すべき点は、この作品がbutterさんの最初の作品という事です。入校時から「メゾチントがしたくて…」と言うので指導し、制作したのですが…。初めてでこんなに上手くできた事が何よりも凄いです。元々美術をしていたとは言え、最初からここまで上手くできるのは才能です。その後作った作品もどんどん上達していて上手です。このままメゾチント制作を続け、今後は公募展等に出してみましょう。
版画コース講師一同