版画コース・ブログ講評 12月分

こんにちは~!
版画コース講師一同です!
先月に引き続き、今月も生徒さんたちの作品講評を行います!(^^)/

今月は以下の3名の講評です!
・小山明俊 さん
・伊藤沙桜 さん
・ヨコオ千恵 さん

以下のマークがこの講師です。
谷山 :谷山文衞 講師。シルクスクリーンを主に指導しています。

山内:山内あすな 講師。銅版画を主に指導しています。

平田:平田彩乃 講師。木版画を主に指導しています。

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作者: 小山明俊
題名:キノコ上の聖堂
コメント: 聖堂のモデルはガウディのサクラダファミリア大聖堂です。きのことは全く無縁のように思われますが、自然の形態を多く取り入れた建築物とマッチするのではないかと思い取り入れてみました。

谷山
シュールなイメージの作品ですね。このような画面ならもっとリアルな描画やメゾチントなどを思い浮かべますが、この絵の場合ラインエッチングのみで表現の方が良かったように思います。バックも均一に真っ黒であれば見た目も随分違うと思います(逆に真っ白でも同様に)。椎茸と聖堂が同化した状態を表現したいのか、単に乗っている状態を表現したいのか。ちょっとした表現の違いによって内容が変わってしまうことはよくあります。この作品の場合出来上がりの画面を具体的にイメージする必要がありそうです。

山内
小山さんは普段デッサン基礎科で学んでいる生徒さんですが、ここ数か月は版画コースで銅版画を制作しています。
この作品は銅版画作品・2作目ですね。個人的にこの作品はとても好きです。「迷い無く揺れた線」と言う感じでしょうか?この線が良いですね。
キノコと建物という組み合わせも妙にオシャレで面白いです。
背景は「アクアチント」で均一な真っ黒にしようか?という話も出ていましたが、均一だとこの絵には遊びが無くて面白くなくなるので、これで良かったと思います。ただ、このマダラに必然性があっても良かったかもしれません。必然性と言うのは、「わざとマダラにしていますよ!」という作者の意志を感じる要素です。これが無いと、失敗しているように見られかねません。

平田
なるほど、きのこを台座に取り入れたんですね。
サグラダファミリアは聖書と自然物の有機的な形を取り入れた教会なので、きのことも合うと思います。
なぜきのこをチョイスしたのかは分かりませんが笑、サグラダファミリアの荘厳で描き込まれたところに対し、きのこの柔らかなフォルムが対照的でおもしろいですね。
黒の背景も効いています。背景の黒はどうやって腐食させたのでしょうか?ムラが画面に余裕を与えて、不思議な空間が広がるようで効果的ですね。
サグラダファミリアときのこの親和性と伺ったので、勝手にえのきやしめじなど群生するきのことサグラダファミリアは確かに似ているなぁと思っていましたが、まったく逆を突かれました。独自の感性はこれからも大切にして制作していただきたいなと思います!

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作者:伊藤沙桜
タイトル:"Bias"(バイアス)
コメント:
人が見るものって偏りがあるなと思った話です。
田んぼを眺めていたとき、空が映っていて「あぁなんて美しい日だろう」と思っていました。
あくる日同じ場所を見たら、カエルが鳴いていたりアメンボがとんでいたり‥
つまりはそのときに”見たいもの”を無意識に選んでいるんです。
魚を食べる前は、美味しそう‥どこから食べよう‥など思考を巡らせますが、食べ終わった後はゴミとなる。
すぐに「これから片付けて本でも読もうかな」など別のことに思考がいきますよね。
人間はそんなものです。
いつだって「自分の目には偏りがある」ということをたまに思い出して生きたい。
そんな絵です。

谷山
コメントを読ませてもらうと組み絵にした理由を窺い知ることができますが、逆に個々の作品の魅力が削がれているように思えます。個で見るとそれぞれ非常に魅力的に作られています。組み絵として見ると版が不完全なため、インクの拭き取りでコントロールしているように見えます。個々で見るとそれも魅力的に思えます。個々にして紙の余白を大きくとってみて下さい。作品に自分の思いの丈を詰め込むことは不可能です。思いのエキスを抽出して表現するようにすればもっと良くなるはずです。版画はそういう作業に適した表現です。

山内
3枚の銅版を1枚の紙に刷った作品です。コンセプトと組み絵が合っていて良いと思います。私は遠目で見たこの作品の印象は好きです。ちょっと不思議で謎があり(普通の人は顔を上下にはしないと思うんですよね…。あからさまな謎でなく、こういう微妙な謎の方が頭に残ります)、面白いです。しかし近くで見ると若干物足りない。今は描写全てに勢いがあるので、丁寧にしっかり描く部分も作り、締めるところを締めた緩急…小山さんに書いたような「必然性」が欲しいです。
私個人的な基準ですが、遠目からの印象が良く(つまり飾っていても迫力や華があり)、近くで見ても面白い(じっくり見て飽きが来ない)というのが良い絵です。そこからは好みで買ったり買わなかったりしますが、やはり上記のどちらかが欠けている絵は買った事がありません。伊藤さんは遠目の印象は作れると思うので、あとは近くで見て面白いというのを追及してみてはどうでしょうか。もっと迫力が出て良くなると思います。

平田
”自分の目には偏りがある”
これは確かに大切な警鐘ですね。
版画は版を介して表現する間接技法ですので、筆や描く直接技法よりは、作品と作者と距離ができると思います。伊藤さんの警鐘を表現するにはぴったりな表現技法だと思います。
この作品を見ると、伊藤さんのコンセプトは十分すぎるほど伝わります。
逆に説明的なので、それ以上作品にのめり込みにくいようにも感じます。
時系列で3つの絵を並べているのは、とても分かりやすく1点1点の銅版画もおもしろいのですが、同じ紙上に並べてしまうと、どうしても見る人はこの絵とこの絵の関連性は…と考えてしまいます。関連性がわかってしまうと、それ以上は踏み込まないと思います。
もし同じコンセプトとモチーフで、1つのイメージの中で表現しようとした場合、どうなるでしょうか?一度考えてみても良さそうですね。
伊藤さんの想い(コンセプト)をそのまま説明するのではなく、かみ砕いて一部だけ抽出したり、全部ひっくるめて一つにものとして表現したり、方法はいろいろあると思います。
今作の場合、伊藤さんの意図とは違っているかもしれませんが、様々な魚がツギハギされて一匹の魚の形を成していてもおもしろそうですね。
イメージに起こすときに、一度つくったイメージをを再構築して、作品にしてみてはいかがでしょうか。
絵は誠実に描かれていますので、この調子で!

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作者:ヨコオ千恵
タイトル:守られて、ヨコオ
制作年:2004
コメント:
二度と戻れない懐かしい時間を形に残したくて描いた作品です。
自分が好きなもの、大事だと思うもの、ピンときたもの、をモチーフとして制作しています。
ついでに、クスッと笑ってもらえたら、なお嬉しいです。

谷山
非常に良い作品です。それぞれの人の表情やポーズからそれぞれの人となりまで垣間見ることができそうです。描画や画面構成も良いです。強いて難点を探せばインクの拭き取りですかね。もう少しラインがシャープに出せると思います。アクアチントなど雑なところはありますが、この作品では何の問題もありません。この作品はA.P.になっていますがエディションをきっちり刷る習慣をつければ刷りは上手くなります。表現力は十分あるので、伝統的なデッサン力や構成力などに囚われないようにして下さい。

山内
基礎画力があり、もう版画云々以前に絵が上手いですよね。構成が上手なので遠くから見ても成立していますし、近くでじっと見ても面白い絵です。ヨコオさんのお母様?の顔が真ん中にドーンと描きこまれていて、まずインパクトで笑います。次に下、左上…と絵全体の視線誘導も上手いです。子どもたちの表情が絶妙で、登場人物たちの性格を想像させるような物語性も絵の中にあります。
この絵が飾ってあったら私は立ち止まって見ます。が、額に入れて飾ると言うよりCDのジャケットや映画のポスターの方が合っていそうな絵です。
特に指摘することが無いのですが、カラーだったら個人的にはもっと面白いかも?今の状態は黒々しく若干重いので、カラー版を重ねてデザイン性を強くすると見やすくなります。それが好きか嫌いかは好みですが。

平田
由縁のある人たちなのでしょうか。
画面いっぱいに配置されていますが、メインサブの配置、描き込みがうまくされているのでリズム感のある構成になっていますね。
エッチングの線もきれいです。
なつかしさのあるひとたちイメージと銅版特有のノスタルジックな表現で相乗効果が生まれていますね。

版画コース講師一同

 

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