アクリル絵具で体験する油彩技法 – 初心者におすすめの油 絵入門

ブログをご覧の皆様、初めまして!
アートスクールオンライン講座 美術・デッサンコースで講師を務めています、執行浩暉 (しぎょう こうき)と申します。この度はブログを閲覧してくださりありがとうございます。  
このブログはタイトル通りアクリル絵具を用いて油彩技法を間接的に行う方法をまとめ たブログとなっております。油絵に興味がある方、特に費用的に油絵画材を買うことが困 難な方にぜひお勧めしたいです。

油絵画材やそのための素材などは非常に価格が高く揃えるのにも一苦労です。
私も最初 に買った時はその価格にびっくりしたものです。しかし、そのぶん初めて描いたときの油 絵の凄さにもびっくりしました。
そこで今回はアクリル絵具を代用することによって価格を抑え、ハードルを下げることによって、より多くの人が油絵に近づけるように文章にまとめてみました。
このブログを読んで、そして実際に示した手順に沿うことによって、油 絵を体験する機会、または油絵をする前の準備になればいいなと思います。 ぜひ最後まで見ていってください!

1.油絵って何?アクリル絵具との違いは?

油絵とは15世紀前半に作られた、メディウムとして油を使った描画技法のことをさします。
皆さんが知っている西洋絵画のほとんどはこの技法で描かれています。
日本で有名な 画家でいうと、レオナルド・ダ・ヴィンチ、ミケランジェロ、ラファエロ、フェルメール、 モネ、ルノワール、ゴッホ、ピカソなんかも言わずもがな油絵具で制作をしていました。
その油絵の特徴は以下のとおりです。

1.乾きが遅いためすぐ消すことができ、画面上での混色も簡単にできること。
2.乾いた後にも油の透明な塗膜があることにより発色が綺麗であること。
3.堅牢で保存性に優れている。
4.あらゆる下地材に適合できる

少し難しいかもしれませんが際たる特徴は1と2です。
それではアクリル絵具と比較して考えてみましょう。
※ここで使用しているのはアクリル絵具でアクリルガッシュではないので注意して下さい。
(アクリル絵具とアクリルガッシュは前者が透明で、後者が不透明という違いがあるので使用の際は気をつけましょう)

アクリル絵具で絵を描いたことがある人ならわかると思うのですが、アクリル絵具は一 度描いてしまうと乾燥するのが非常に早いです。なので間違えて消そうと思っても困難な時が多いです。そしてアクリル絵具には耐水性があるので乾いてしまうと水と交わらず取 れません。また乾くのが早いため画面上での混色も容易ではありません。
もしするとした ら水を多量に含ませて描くことになります。その場合非常に淡い表現に限定されてしまい ます。また乾くと塗っていた時よりも少々白んで見えてしまいます。これは表面の顔料の 色がそのまま見えているからです。
 油絵はアクリル絵具とは違い乾くのが遅く消すのも容易ですし、その猶予の時間も長い です。また画面の混色も容易で、油を多量に含ませなくてもそのままの絵の具でも長い時 間混色し続けることが可能です。これによりアクリル絵具よりかはしっかりとした混色表 現も可能になります。
また発色はアクリル絵具と違い、乾いた後も顔料はメディウムであ る油の透明な塗膜に覆われているため綺麗な発色を出すことが可能です。要は、アクリル 絵具で塗っているときの発色(水を含んでいるときの発色)をそのまま乾燥しても保つこ とができると考えれば想像がしやすいと思います。それに加えて耐久性もあるし、いろん なものに描くことができるので本当に優れた画材と言えると思います。
 この図はアクリル絵具と油絵の具の発色の違いを塗り比べたものです。使用したのは両 方ともバントシェンナという色です。右が油絵、左がアクリル絵具です。

2 油絵に触れる機会の少なさと費用の壁  

ではそんな油絵具で絵を描こうと思ったこと、または描いたことはありますか?
おそらくほとんどの人がないと思います。それもそのはず、学校教育でも触れる画材はク レヨン、パステル、色鉛筆、クーピー、水彩絵の具全般などで油彩に触れる機会はあるか ないか怪しいところですし、文房具屋に行ったとしても油絵具が置いてるところは滅多に ありません。私たちの日常の中では油絵具に触れる機会はほとんどないのです。しかし、 画材屋さんに行けば売ってありますし、ネットでも購入できます。なんなら100均にも 売ってあります。
 皆さんにまず知っていて欲しいのは、油絵具はいつでも手を伸ばせば購入できるところ にあるということです。購入できる方はぜひ本物に触れて体験することをお勧めします。

 しかし、油絵を始めようにも先ほどいった費用の壁があります。それもそのはず、しっ かりしたものを揃えようとなると用意する画材は他のものと比べ種類が多く、かつ一つ一 つが高価で最小限で揃えたとしても1万円弱はかかってしまいます。また初めて触るので したら、「買っても難しかったら続かないし」とか、「一回やって使わなくなったら勿体 無いし」とか、色々と考えてしまうでしょう。
おまけに油絵は匂いがどの画材よりもズバ 抜けて臭いです。べとべとしますし、ゴミとして捨てる際の処理も面倒臭いです。私も初めはこんなに面倒臭い画材があるのかと思う程でした。(ただ油絵は他の画材と違って自 由度が高く発色が綺麗です!!)  

そこで今回はアクリル絵具を使うことによって費用面を抑え、準備などもよりストレス フリーにした上で油絵を間接的に体験できる方法をご紹介したいと思います。油絵をやっ てみたい方や、費用面でできなかった方などには油彩を始める前の準備、ちょっとした体 験の機会のようなものとしてこれから示す方法を実践するといいと思います。またアクリ ル絵具を用いたアクリル画を描きたい人にもお勧めします。

3 アクリル絵具で油絵のように描けるのか  

しかしながら、「油絵とアクリル絵具って全然ちがうくないかぁ?」と思う方がいるか もしれません。確かにアクリル絵具は絵の具を溶くために用いるのは水で、油絵は油で溶 きます。その時点で正反対ではないかと言われるとそうです。乾きもアクリルはすぐ乾き ますが油絵は時間がかかります。「全然違うし油絵の体験なんてできたもんじゃないだろ う」そう思う方もいられるのではないでしょうか。しかしこのような形で描けるのです。

これらは私がアクリル絵具のみを用いて描いたものです。
一見すると油絵のように見えますがしっかりとアクリル絵具で描いています。言ってしま えば油絵っぽく描くことは他の画材でも可能です。しかしこのアクリル絵具で描いたもの は手順としても油彩技法に沿ったやり方で描かれています。なぜそれが可能かというと、 アクリル絵具と油絵具のある一つの共通点が関係しています。
 それは再融解性がないところです。フツーの水彩絵の具やポスターカラーは乾いた後に もう一度水で溶くと溶けます。しかし、アクリル水彩は溶けないのです。これにより絵の 具の層を何層にも重ねることが可能になります。これは油絵具も同じです。これによりアクリル水彩はある油絵の技法と同じ手順で描画することができます。その技法は古典的な 技法である多層構造で描く技法です。今回はその中でも下書き、明暗処理、色彩をそれぞ れ別々の層で仕事を行う技法を行います。
 この時に必要な性質が先ほどいった再融解性がないことです。再融解性があったら下に 描いた層は溶けて消えてしまいます。これでは層を重ねることはできません。その為今回 はこれに適したアクリル水彩は使えるというわけです。 ここで少しその多層構造で描く技法について補足しておきます。 読みたい方はぜひ読んでください!!

 この技法は非常にオーソドックスで皆さんの知っている、レオナルド・ダ・ヴィンチや ラファエロ、ミケランジェロなどが活躍したルネサンス期にはすでにあった技法です。こ れは非常に便利な技法で絵の具も多量に使わず、計画的に絵を描け、また下書き、明暗起 こし、色付け、をそれぞれ分業することができるのです。そのため初心者の人でも描きやすい技法となっております。
 今回はその技法を学びながらルネサンス期の頃やそれ以前は今のようにチューブ絵の具なんてものは存在しません。 1から顔料と油を混ぜ絵の具を作り描いていました。だったら絵の具を前もってたくさん 作れば楽でいいじゃないかと思うかもしれませんが、油絵具は放っておくと固まります し、先ほど言った通りチューブもないので保存も難しいのです。そのため1日1日計画性を 持って描かなければ、画材の費用も無駄になるし、労力もかかってしまいます。そのため このような技法が主流とされました。

4.油彩技法の要領でアクリル水彩画を描く

それではここからは本題の描き方についてご紹介していきたいと思います。
まずは材料です

  • ○ アクリル絵具
  • ○ 鉛筆
  • ○ 消しゴム
  • ○ 筆
  • ○ 筆洗器
  • ○ パレット
  • ○ 布
  • ○ ティッシュ
  • ○ 支持体(キャンバス/木の板/色紙)
    ※支持体はカッコ内のいずれかをお勧めします
  • ○ ゴミを入れるための袋

 

 ちなみにですが支持体を色紙にすると、ここに提示した画材全部100均で足りるんで す。  
今の100均では画材がたんと揃っているので安価で多数入手することが可能です。 色紙も100均のものを使用していますが問題なく描けます。また筆洗器はペットボト ル、パレットは白いまな板など代用するのも可能です。

 今回はウィレム・カレフの「Still Life with a Silver Jug and a Porcelain Bowl」という作 品を模写していきたいと思います。

(1)下書き

 まず下書きをしていきます。自分の描きたい絵や、モ チーフを鉛筆で描きましょう。この作業より塗る作業を優 先したい方は、描きたい絵や写真を用紙に印刷して転写す るとスムーズに下書きが進むのでお勧めします。

(2)アクリル絵具でなぞる

 一般的には下書きを鉛筆などで行った後は定着剤という ものをかけます。なぜかというと次に行う作業で画面全体 に色をのせる時に下書きが消えてしまう可能性があるから です。しかし今回は費用面を考え割愛させていただきま す。定着剤というものがあることだけ頭に入れておきま しょう。代わりに今回は描いた下書きをアクリル水彩でな ぞります。そうすると次に行う作業の時に消えずに済みま す。 ※このなぞる作業は今回特別に行うもので一般的には油絵 では行いません。

(3)インプリマトゥーラ

 次にインプリマトゥーラという作業を行います。とは 言ってもこの名前は絵の具の薄い塗膜の意味で、この作業 では画面一面にその層を施すというわけです。なぜこのよ うな作業をするかというと、光の色、影の色と二つの色から形を取ることができ描きやす くなるからです。また一色入れることで画面の統一感を出したり、油絵であれば下地への 油の吸収を調整する効果があったりします。

(4)明暗、質感の描き出し

ここからはいよいよ単色で形や明暗、質感などを起こし ていきます。ここはいわばデッサンの延長線と考えて描い ていいと思います。しっかりモチーフを見て描き出しま しょう。  ポイントは二つあります。まず描くモチーフの明暗より も明るく描くことです。なぜかというとこの後に色をのせ る時に、必ず明度は暗くなります。そうなると色をのせる 時にまた上から明るい色をのせて明暗を調整しなくてはい けなくなります。そうするとせっかく描いた形、明暗、質 感を不透明色で消すことになってしまうので、二度手間を 避けるために明度は明るく設定しましょう。 ※絶対に不透明をのせて消してはいけないということではありません。適宜不透明を使っ て色彩を作ることもあります。

 

  次に質感を描き起こすことです。
この多層構造の技法では色彩は薄い色でのせていきま す。その為、絵の具を盛り上げる作業を色彩の段階で行うことはあまり好まれません。そ のため質感はこの作業の間に描きます。そうすると次の色彩の時に色を一層のせただけで もモチーフに一気に近づきます。

以上の点を一つの絵を見ながら確認してみましょう。

このナシは一色だけの濃淡で色づけたものですが、これでもナシ感が一気に出たのがわか ります。このような効果が生まれるのはその前の段階で明暗や質感を作っておいたからこ そ出るのです。  まず一つ目に挙げた明度を明るく設定する点です。見て分かる通り色をのせる前は影を のぞいて明度が明るいことがわかります。そして色をのせた後に明度が下がっていること もわかると思います。先ほど言った通り色をのせると明度は下がるのです。なので前もっ て明度を白くして色をのせる時に、ちょうどナシの明暗になるように調整するようにしま しょう。(明度を明るくしないと、このナシが色をつけた後に想定より暗くなってしまい ます!)
 次に質感を描き起こす点を見ていきましょう。色を塗る前は筆の跡が結構残っているこ とがわかります。これは筆の跡を使うことで立体感やごつごつとしたナシの質感を出すた めに用いました。これに色をつけるとぴったしナシの質感になっていることがわかりま す。

 またアクリル絵の具は乾くのが早く、一気に明暗を追おうとすると絵の具がすぐ乾いて 非常に描きにくくなってしまいます。なので点描やハッチングを使って少しずつ描くこと をお勧めします。
またウェットインウェットという技法を使うとよりハッチングや点描よりのびのびと描く ことが可能です。この技法は画面上の絵の具が濡れたままの状態、またはアクリル水彩で したら画面上が水で濡れている状態の時に、その上にまた絵の具をのせて画面上で混ぜ合 わせるという技法をさします。これにより画面上で色を混ぜ合わせながら明暗や形を描く ことが可能になります。フツーですとパレットから出して、作ってのせるという非常に描 きづらいやり方になってしまいますが、この方法ですと鉛筆で黒い色から薄い色を出せる ように、描く際のトーンの幅を持つことが可能なのです。アクリルの場合乾くまでの時間 が早いですが、十分画面上で色を混ぜることは可能です。 以上の点など踏まえながら描いていきましょう。

(5)グレイズ

 ここからは色彩をのせていく作業です。描画の際に、前 もって描いてあるものの上に薄い色で絵の具をのせる行為を グレイズと言います。これを行うと下の絵は完全に隠れず 塗った色に透けて見えることになります。これにより下に描 いてあった絵を崩さずに色彩を重ねてより複雑な色を作るこ とができるのです。また透明な色だけではなかなか実際のモ チーフには近づきません。状況に応じて厚い色をのせたり、 明るい不透明な色で描き起こしたりしながら形にしていきま しょう。
色彩が終われば完成です!!
実際の油絵のグリザイユ技法でもこのような作業を経て描かれます。


※下地から作りたい人はジェッソの購入をお勧めします。
実際に行うとわかるかもしれませんがイラストのレイヤーに近いものを感じると思いま す。イラストもグリザイユのような技法もありますし、やったことがある人はハッとする かもしれません。

5.おまけ 美術鑑賞の際の思考 西洋美術史~今現在の絵画

 おまけとしまして、美術鑑賞の際にあると便利な知識を西洋美術史から今現在の絵画ま でを参照しながら概説したものを記したいと思います。 皆さんは美術館に足を運んだことはありますか?その時に見る絵画は一体どんなものです か?今回模写で描いた絵画のような作品だけでなく、何を描いてあるのか分からなかった り、そもそもこれは絵なのかと疑いたくなるようなものも多く見たことがあるのではない でしょうか。そしてそんな絵画に出会ったときに何もわからずに「そういう絵なのだな と」片付けてしまっているのではないでしょうか。今から記すことはその時に思い出して いただけたら幸いです。
 長い歴史の間絵は様々な用途、目的のために描き続けられてきました。昔の絵画は今の ように個人が主体的に描くものではありませんでした。時には肖像のために、時には宗教 や祈りために、時には栄光を残すために、人々は絵画を必要とし、画家はそれに応えるよ うに描いたのです。そして特に西洋では、絵画は現実のようなリアルな描写でなければい けませんでした(特にルネサンス期頃以降)。それもそのはず当時は絵画とはリアルに描 き出されるものとされ、今のような写真のような技術はなかったのです。そういった考え に反発したのが印象派です。印象派はただ視覚的にリアルに描くのではなく、現実に巻き 起こる光を捉えようとした人たちです。従来の古典主義とは打って変わってそこにある具 体的な図像は朧げで、印象だけが漂っているような絵肌なのが特徴です。モネの絵画を想 像していただけるといいと思います。


 しかし、写真の登場によりまた新しい画家たちが出てきます。それがポスト印象派で す。写真の登場により視覚的なイメージを司る絵画は存在意義がなくなったも同然でし た。その時にその画家たちは絵画にしかできないことを模索し始めました。セザンヌや ゴッホ、ゴーギャンなどがその際たる画家です。セザンヌの絵を見るとわかるのですが、 一見ただ下手に描かれた静物画のようにしか見えません。しかしそれは様々な角度からモ チーフを捉えることにより生まれた図像で、絵画の中に新たな世界を構築しようとしてい るのです。当時の人々もこれを理解するのには苦労したことでしょう。これをかわきりに 絵画は様々な形に変容していきます。


 このような変遷により絵画は、古典主義的な現実のようにリアルに描かなければならな いという鎖を解き放ち自由になったのです。こうやって絵画は今に至るのです。今の絵画 もそんな問いの途中にいるのです。
 絵画を見るときはこのような歴史を踏まえつつ、写真や動画という撮影媒体がある今現 代の中で、油彩画や日本画、他のジャンルでもいいですが、人が見て描くという行為を行 うのはなぜかと問いながら鑑賞するとより深いものを感じられるかもしれません。また最 近ではAI生成というホット話題もあります。この先絵は様々な人の手で人工知能に頼り生 成されていくことが多くなるでしょう。今現代人は、制作をするという行為そのものを問 われているのではないでしょうか?

6 最後に

 いかがだったでしょうか。
このような手順を踏まえて描くと油絵のような重厚な絵を描 くことがアクリル絵具でも可能になっちゃうんです!費用もお安く済むのでぜひ試してみ てください。
 私の講座「アクリル水彩で体験する油彩技法」ではこのような油絵初心者入門のオンラ イン授業を行っております。先ほどの説明に加えて、描く前準備として支持体や下地の 話、そのほかテクニックやちょっとした西洋美術史の話など扱っているのでもしよかった ら受講してみてください! ご覧いただきありがとうございます。

執行 浩暉

執行 浩暉
Profile
【趣味】
音楽・ピアノ・スケッチ・普通電車で知らない場所に行く
【好きな作家】
ジョン・シンガー・サージェント、アンソニー・ヴァン・ダイク、フィル・ヘイル、
ニコライ・ブロッキン、コルネリウ・ババ、アンリ・ファンタン=ラトゥール、ジョヴァンニ・セガンティーニ

 

ArtWorks