売れなかった商品についての物語


プロローグ  時をかける想像

 私のまわりでよく「本当はクラフトデザイナーになりたかったけれど、ビジネスも販売も苦手だからあきらめた」という話を聞きます。
たしかに商品を店頭販売しようと思えば、経営・ビジネスを避けることは難しいかもしれません。
でも実際は、それ以外のルートもたくさんありますし、アートの仕事をしている私は、複雑な経済学やビジネスプランなんて、これっぽっちも使いません。
じゃあ一体、クラフトデザイナーの仕事をするときに大切なこととはなんなのでしょう。
 創造することと販売すること。お客様の気持ちになって、相手が自分に何をしてほしいのかを想像するのが、デザイナーにとっていちばん大切なことです。
ですから、何かを販売する前にたくさんの想像があってこそ、はじめてできることのような気がします。

 どうして最初にそんな話をしたかというと、販売することに先立って現れる、誰にでもできる思いやりのおこない一想像することの大切さをなんとか伝えられないかと思ったからです。
経営や販売に関する資料や本はたくさん出ていますが、よっぽどの専門家でない限り、それをまるまる知識としてためこんでも、使いみちはほとんどありません。
でもたとえば、ネックレスを創作する前にその素材や身に付ける人びとの暮らしなどをすこしだけ勉強したら、店頭や販売現場に行ってそこの空気を感じ、そこの商品を手にとったとたん、ばらばらだった知識がひとつになっていきいきとよみがえり、お客様の日常に想像が膨らみ、知らないで創作するより、はるか遠くに旅立てるような気がします。

 私は販売の専門家でもないし、緻密で正確な分析はほかの人にお願いせざるをえません。
でも日常の限られた情報の隙間を埋め、街や生活を想像し、気ままな空想の旅に出るという楽しみは、専門家たちだけに任せてしまうのは本当にもったいないと思います。
たとえ稚拙な誤りの集まりだったとしても、それが間違っていたとしても、自分でつくった世界というのは、どんな借り物の世界よりも強く豊かなのです。
どんな人が、これを身に付けるのだろう。その人は、どこでどんな生活を送るのだろう、そしてその街には、どんな人が住んでいるんだろうと想像しながら。

 そいうことをしてるうちに、自分が惹かれる商品にある共通点があることに気づきました。ひとつは、カタログ商品のように創られ扱われた商品よりも、そのまわりの雰囲気や生活全体を意識されたもののほうが、世界に広がりがあって、より想像を膨らませて楽しいということ。
 だとするといま私たちにしか創れない夢物語を、他の人たちに負けないぐらいめいっぱい創作しなくては、想像しなくてはいけないのでは、と思うのです。

✨明るい未来計画✨

「私は人が身に付けているモノが好きだからデザイナーになったんだ。モノ自体よりも、その内や外でそれを身に付けてどんな活動が行われているかのほうが大事なんだ。」
実際、店頭にはモノを身に付けることが楽しそうな人がたくさん寄ってくる。
草花のカタチ、日光浴をしながら雑誌を読んだり、洗濯物を干したり、ほほえんで出勤する際に身に付けたり。そこに費やされるすべてがその人のモノとなって、まったく新しい生活が始まろうとしている。


売れる商品は売れる売り方をしています。
売り方の秘密に想いをめぐらせてみましょう。
例えば、百貨店や賑わいのある雑貨店で売れている商品の売り方を参考にしてみてはどうでしょう。

神の目線…売れる商品には必ず売れる理由がある!!

置き場所や商品の説明、商品に添えるアイテムなどが、どのように考え、工夫されているかよく観察しましょう。




    

✨真っ当な不思議さ✨

その商品に一度逢ってみたかった。身に付けたらきっと話が尽きないと思う。
ネーミングの響きが良かったら、思わず手にとったのも、さしで不思議なことではなく、まるでふつうのことのように感じてしまう。
それはきっと、限られた情報で大きな余白を埋めるために、作者自身が世界の仕組みをつくりあげたからにほかならない。


〈商品が売れない理由は?〉
その1)  ネーミングが適当すぎませんか?
     例えば、ブレスレット。単に“ブレスレット”ではダメ!!
     お客様の欲しい商品にできる限り一致するネーミングを考えてみましょう。
     商品が売れない要因で、ネーミングが占める割合はとても大きいんです。

神の目線…購買者目線のネーミングが大事!!
         ブレスレット→“キラキラ星のブレスレット”



□リサーチ
 ・カテゴリで商品を探しているお客様は、漠然とどんなものが売られているか探している方がほとんどです。
   ・実際、ブレスレットのデザインにはそれほどこだわっていません。


✨旅人の距離感✨
購買意欲の高いお客様を逃さないように、複数のキーワードで上位にヒットされるよう
なネーミングを付けることがとても大切な心得。

その2) 商品写真が適当すぎませんか?
    写真のクオリティーが低いと、商品はなかなか売れるものではありません。
    例えば、撮影の枚数やアングル、明るさにこだわってみて、写真として美しいと
             感じる、ビジュアル性の高い見映えのする画像をとるように心掛けましょう。

□リサーチ
・商品の裏や着脱状況など、購入を検討しているお客様が、気になるんじゃないかと思われる情報を画像でわかるように解説すると更に良いですネ。



神の目線…モデルを使った商品写真や背景をその商品の利用シーンに取り入れてみたりすると、お客様の選択機会が更に広がり、勢い購買意欲を刺激します。

✨旅人の距離感✨
お客様が使っている状況でリアルに想像できて、コレ欲しいなと思わせる商品写真を使いましょう!
また複数の写真を用意することで、バリエーションのあるサイズ感やコーデ、雰囲気など実感のある商品の魅力がお客様にダイレクトに伝わります。

  

その3) 商品紹介文が適当すぎませんか?
    お客様が知りたいと思っていることが全く書かれておらず、内容の薄っぺらい商品紹介ばかりです。

✨本気の冗談✨
文章を読んで商品の売りの内容、魅力がわからなければ、購入者に商品の良さは伝わらないので、全く売れないのは当たり前です。

神の目線…商品紹介が長ければ良いという訳ではありません。
     作家として、作り手として、どんな気持ちで、どんなコンセプトで、どんな人に使ってもらいたいかということを明るくハッキリ書いて、お客様に商品のことをしっかり知ってもらいましょう。

✨愛を求めてまっすぐに✨

デザイナーは生活のさまざまな問題や課題に対して、知恵を絞り多くのプランを示してきたけれど、まだ手つかずのものがあるとすれば、それは生活する人々の幸福を伝える心に響く言葉・文章だ。
勢い余って、いつのまにか文字から意味が離れていくことがあるけれど、生活への執着と快さへの、探求心によって、デザイナーの感性とそれが呼び起こす購買者の想像力をフレッシュに保つことがとても大切だ。

 

たとえ写真がなくても、その商品のことがお客様の心の琴線に響き、商品の魅力がまっすぐ伝わる文章を書く事をめざしましょう。




あとがき
お気に入りのデザイングッズを手にする。
でも、たぶん私が、デザインされたモノに強烈に惹かれる魅力というものは、単なる理念の骨子ではなく、
作者が創作した世界のデイティルに、作者にしか思い描けなかったであろう、瑞々しい生活への詩情を感じたからだと思う。
創作されたアイデア・素材・形状が見事だったことはもちろんのこと、「デザイン」をはるかに超えて、
身にまとい、飾られ、用いられる暮らしや楽しみ、人付き合いや生活の様子まで、まるで実在しているかのように見るものに想像させ、
見たことのない美しい生活の中で感じる“生きる豊かさのディティル”です。



  

 

デッサン基礎科 安田 正弘